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大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)4000号 判決 1965年10月11日

原告 樋野産業株式会社

右代表者代表取締役 樋野誠次

右訴訟代理人弁護士 坂東宏

右訴訟復代理人弁護士 斎藤光世

被告 井畑末吉

右訴訟代理人弁護士 久保原昭夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金七二六、八八〇円およびこれに対する昭和三七年八月三一日より完済まで年六分の金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告は不動産取引仲介業者であるが、昭和三五年頃大阪証券業協会(以下協会という)から吹田市大字佐井寺附近の土地買収の仲介を依頼され、適当な土地の探索、土地所有者に対する売却の誘引等をするうち、昭和三六年一一月頃被告からその所有する別紙目録記載の土地(以下本件土地という)の売却の仲介を依頼され、被告と協会との間を斡旋した結果、同年一二月頃両者の間で、被告が本件土地を代金一五、六八〇、〇〇〇円で協会に売渡す契約を締結する運びに至ったが、協会の金融上の都合で、その締結が昭和三七年に延期された。その後原告不知の間に、被告と協会の間で直接本件土地売買の交渉が進められ、昭和三七年八月本件土地について代金二一、八九六、〇〇〇円で売買契約が締結されたが、原告は同年八月初旬頃協会から、右売買契約を締結する旨の報告を受けるとともに、右売買による所有権移転登記手続を代行するように依頼されたので、その頃右登記手続をすませ、本件土地売買の仲介事務を完結した。したがって本件土地の売買契約は協会および被告の依頼に基く原告の仲介によって成立したものである。

二、仮に本件土地売買についての原告の仲介が、協会だけの依頼に基くものであって、被告はその依頼をしなかったとしても、商法の仲立人の規定を類推し、被告もまた原告に対し仲介の報酬を支払う義務を負うものと解すべきである。

三、被告と協会の間の本件土地の売買契約が両者の直接取引により成立したものであって、被告の仲介によるものでないとしても、大阪府告示昭和二八年第一七一号に基き定められた社団法人全日本不動産協会の報酬規定には「取引業者の告知又は案内したる後売主と買主の直接交渉により契約成立したるときと雖も正規の報酬を貰い受くること」となっているから、本件土地の売買については原告の仲介が成功したものとみなされる。

仮に右見解が失当であるとしても、被告は原告に対する報酬の支払を免れようとして、協会と直接取引したものであるから、民法第一三〇条の法理により、原告の仲介が成功したものとみなされる。

四、前記報酬規定によると、不動産売買仲介の報酬は売買価格のうち金二、〇〇〇、〇〇〇円以下の部分は百分の五、金二、〇〇〇、〇〇〇円を超え金五、〇〇〇、〇〇〇円以下の部分は百分の四、金五、〇〇〇、〇〇〇円を超える部分は百分の三であるから、本件取引についての報酬額は金七二六、八八〇円である。

仮に右報酬規定に定める報酬額が不動産取引仲介業者において請求し得る最高額を示したものにすぎず、具体的な報酬額は業者と依頼者とが定めた額によるべきものとすれば、昭和三六年頃原告と被告の間で報酬額を売買価格の百分の三とする旨の合意が成立したから、その報酬額は金六五六、八八〇円である。

そして原告は昭和三七年八月三一日頃被告に到達した書面を以て金七二六、八八〇円の報酬を請求した。

五、仮に被告がその主張二のように、原告に対する本件土地売却仲介の依頼を一方的に解除し、したがって原告が被告に報酬を請求し得ないことになったとすれば、当時すでに原告の斡旋によって本件土地売買の交渉はほとんどまとまっていたのであって、その解除は被告の不利益な時期になされたものであるから、民法第六五一条第二項本文に基き、被告は原告に対し報酬額相当の損害を賠償すべき義務がある。

六、以上のように、被告は原告に対し金七二六、八八〇円、少くとも金六五六、八八〇円の報酬もしくは右同額の損害賠償金を支払うべき義務があるから、被告に対し右金員およびこれに対する昭和三七年八月三一日より完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

七、なお被告主張の事実中、被告の本件土地売却仲介の依頼が解除条件付であったこと、その依頼が合意解除ないし解除されたことは否認する。

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

一、原告主張の事実中、原告が不動産取引仲介業者であること、原告が被告等吹田市大字佐井寺の土地所有者に対し土地売却の誘引をしたこと、昭和三八年八月被告がその所有する本件土地を代金二一、八九六、〇〇〇円で協会に売渡す契約が成立したこと、原告がその主張の頃被告に対し報酬の請求をしたことは認めるが、その余の事実は争う。

二、被告は原告に本件土地売却仲介の依頼をしたことはない。但し、昭和三六年一二月二七日被告が本件土地を直ちに協会に売渡せば、協会において年内にその手附金を支払うことになっているから、売渡を承諾するよう被告より要請されたので、被告は当時金銭の要ることもあった関係上、原告に対し、同年末日までに売買契約が成立し、手附金を受領できるならば、本件土地を協会に売渡すことを承諾する旨答え、金額等を記入していない領収証等に捺印して、これを原告に交付したことがある。仮にこれによって、被告と原告の間に、本件土地売却仲介の委任契約が成立したとすれば、右契約は昭和三六年一二月末日までに手附金が被告に交付されないことを解除条件とするものであるところ、同年一二月末日を以て解除条件が成就し、委任契約は解消した。

仮に右契約が単純な委任契約であったとしても、昭和三七年一月一五日被告と原告との間で右契約を合意解除した。

仮に合意解除がなかったとしても、同日被告は解除の意思表示をしたから、これにより委任は終了した。そしてその時期はなんら原告に不利な時期ではなかった。

三、被告は昭和三七年三月頃より協会の山下総務部長から再三本件土地の売却方を懇請され、その結果協会と売買契約を締結したものであって、原告の所為と右売買契約の成立との間にはなんら因果関係がない。したがって被告には報酬の支払義務はない。

立証≪省略≫

理由

一、原告が不動産取引仲介業者であること、被告と大阪証券業協会との間で昭和三八年八月被告がその所有する本件土地を代金二一、八九六、〇〇〇円で協会に売渡す契約が成立したことは当事者間に争がない。

二、まず右売買契約が原告の仲介によって成立したものかどうかについて検討する。

被告名下の印影ないし売主欄の印影が被告の印章によるものであることにつき争がないので真正に成立したものと推定すべき≪証拠省略≫に弁論の全趣旨を考え併せると協会は昭和三五年頃所属協会員の従業員のための福利厚生施設として綜合グランドを建設することを企画しその敷地として吹田市大字佐井寺に約二万坪の土地を買収する予定を立て、原告にその買収の仲介を依頼したこと、原告は買収予定地の所有者等に土地の売渡方を勧誘をしたが、主としてその所有者二十数名のうち西尾宇一郎等数名がその他の所有者の意向をききつつ、原告の斡旋により、協会と売買条件等の交渉をし、同年一〇月にはほぼ所有者等が一坪当り金八、五〇〇円で売渡に応ずる見込がつき、昭和三六年二月頃までに大部分の所有者が協会と売買契約を締結したこと、本件土地も買収予定地に含まれていたものであって、被告ははじめ西尾等からその売渡を勧められ、次いで原告からも数回にわたりその売渡を勧められ、同年一二月頃原告より、被告が買収に応ずれば協会において年内に手附金を交付するから売渡を承諾するようにと勧誘され、これに対し、一坪当り金三〇、〇〇〇円程度の価格でならば買収に応ずる旨の意向を原告に表明するとともに、原告の要請により、金額等の記載のない手附金領収書等に捺印して、これを原告に交付したこと、原告が直ちに被告の右意向を協会に伝えたところ、協会はその価格が高額にすぎるとして右価格での買受を拒否したこと、一方被告は昭和三六年末までに右価格での売買契約が成立するに至らなかったので、昭和三七年一月原告に対し売渡を取止める旨申入れ、右手附金領収書等の返還を求めたこと、かくして原告の斡旋による協会と被告の間の売買交渉は一時挫折するに至り、原告も右手附金領収書等を被告に返還したこと、昭和三六年一二月頃協会と原告の間に、本件土地とは別個の金銭上の紛争が生じたこともあって、昭和三七年初頃から前記一の売買契約の成立に至るまで、原告は本件土地の売買について全く斡旋しようとしなかったこと、同年四月頃協会は改めて総務部長山下保をして直接被告に対し本件土地の売渡方を交渉させ、はじめ被告においてその売渡を拒否したが両者の間で数回の接衝が重ねられた結果、結局同年八月前記一の価格(一坪当り金二八、〇〇〇円)で売買契約が成立したものであることが認められ、原告代表者樋野誠次訊問の結果(第一、二回)中右認定に反する部分は措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、協会の依頼によって原告が本件土地の売買を斡旋したけれども、その斡旋によっては売買の条件が一致せず、相手方たる被告が売渡の意思をひるがえしたため、その仲介は一応不成功に終り、しかも原告は引続いてその斡旋を試みようとしなかったものであり、その後になって改めて協会と被告の間で直接売買の交渉が開始され、売買条件の折合もつき、売買契約が成立するに至ったものであるから、右売買契約は被告の仲介によって成立したものとはいいがたい。

三、次に原告は被告から本件土地売却の仲介を依頼されてその斡旋をしたと主張するが、証人川島勝郎の証言≪中略≫中、右主張に沿う部分はたやすく措信しがたく他にこれを認めるに足る証拠はない。もっとも原告が協会から本件土地買収の仲介を依頼され、被告にその売渡方を勧誘し、被告が一時これに応じ、一坪当り金三〇、〇〇〇円位で売渡す意向を表明し、原告に手附金領収書等を交付した事実があることは、前示のとおりであるけれども、右事実から直ちに被告が本件土地売却の仲介を原告に依頼したものとは認めがたい。

四、原告は被告において売買の仲介を依頼しなくても商法の仲立人の規定を類推適用し、被告に対し報酬を請求することができると主張する。しかし仲立人が委託者およびその相手方に対し報酬を請求し得るのは、仲立人の媒介により契約が成立したことが必要であって、契約の成立が仲立人の媒介によるものでないときは、報酬を求めることはできない。

五、ところで、原告は社団法人全日本不動産協会が定めた報酬規定によって、原告の仲介は成功したものとみなされると主張する。なるほど≪証拠省略≫によれば、社団法人全日本不動産協会の定めた報酬規定には原告主張の三のような定めのあることが窺われるけれども、右定めは所属協会員を拘束するにすぎず、協会員以外の者に当然に効力を及ぼすものとは解しがたい。

(なお、右定めが仲介業者においてかつて売主と買主の間の仲介の労をとったことがあるときは、両者の間に契約が成立した場合、常に報酬を請求すべきものと定めた趣旨であるとも解しがたい。)

さらに原告は被告が原告に対する報酬の支払を免れようとして協会と直接取引をしたから、民法第一三〇条の法理により、原告の仲介が成功したものとみなされると主張する。しかし被告が原告主張のように、報酬の支払を回避しようとして、協会と直接取引したものであることを認めるに足る証拠はないのみならず、前記認定の事実によれば、被告と協会の間の本件土地売買についての原告の斡旋は一応失敗に帰し、そのうえ原告が爾後両者の間の斡旋を試みようとしないので、協会が改めて直接被告と交渉した結果、売買契約が成立したものであり、被告が原告を除外して協会と直接取引したことにつき、格別不当な点があるとは認めがたい。右主張もまた採用しない。

されば原告の報酬の請求は失当であるというほかない。

六、次に、原告は被告が原告に本件土地売却の仲介を依頼しながら、原告の不利な時期に解約したため、被告より得べかりし報酬を失ったから、民法第六五一条第二項本文に基き、報酬額相当の損害の賠償を求めると主張する。しかし被告が売買の仲介を依頼したことを認めがたいことは前示のとおりである。(なお右規定にいう損害とは委任の解除が相手方の不利益な時期になされることによって特に生ずる損害を指すのであって、被告主張の報酬請求権の喪失のような、不利益でない時期に解除されても生ずる損害はこれに当らない)したがって右損害賠償の請求もまた失当である。

七、よって原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川恭)

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